協力隊員活動記 ~キリマンジャロ山麓の農村で現地民と暮らした2年間の記録~

青年海外協力隊(2015年9月~2017年9月)でタンザニアに派遣されていました。キリマンジャロの見える農村で様々な課題解決に取り組みました。

井戸を掘ったはいいが...。 ~ある青年の残念なお話~

◯ 井戸を掘ったある若者
農家巡りをしていた時、ある若者2人に声をかけられた。
若者「中国人?」
僕「いや、日本人。2年間この村で生活するんだ。」
若者「何の教科教えるの?」
僕「いや、教師じゃなくて農業普及員みたいなことやる予定なんだ。」
(←僕の任地付近では協力隊員が教師として何人も活動しているので、日本人=教師と思われることが多い。)
若者「今時間ある?ちょっと見て欲しいものがある。」
 
そうして連れて行かれたのは彼の家。でも家の中じゃなく、家の前。
見ると何か穴が掘ってある。トイレの穴かな~と思い近づいてみると、井戸だった。
お、井戸掘ったんや、と思ったけど2人の顔は険しい。
 
話を聞いてみると、井戸を掘って水を汲み上げるポンプも購入したのだが、
ポンプの長さが足りず水まで届かないとのこと...。
トマトを始めとして色々な野菜を育てたかったらしいが、計画は実行寸前で破綻。
 
見ていてものすごく悔しそうなのが分かるし、この村は水さえあれば農業に適した土地であることが分かっているだけに何とかしてやりたい。
「JICAにこれよりもいいポンプとかないのか?支援できないの?」って
聞かれたが、
「支援してやりたいが、個人に対する支援は難しい」ということを伝える。
 
結局、新しいポンプを買うまではバケツで水を汲み上げて使う、と。
そして長さが足りなかったポンプを買ってくれそうな人を探していると。もちろん、買った値段から割引して売るとのこと。
「俺よりもお前のほうが人脈も広がりそうだから、もしポンプを買いたい人がいたら言ってくれ」とのこと。
確かに、ポンプを安く売っている人がいるということは覚えておいて損はなさそうだ。
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▲ペダルを踏んで水を汲み上げる人力タイプのポンプ。ホースを2本つなぎ、1本は7m下から水を汲み上げ、もう1本のホースで水を噴射することが出来るが水面は地下10mにあったので使えなかったとのこと。
 
◯ 井戸掘りは手作業で
 この時、ポンプを購入した若者の横にいた青年が井戸を掘ったとの事だった。機械で掘ったのだと思っていたが、手で、しかも単独で掘りあげたらしい。結構信じられない。どのような道具を使ったのかは知らないが井戸掘り職人の彼の手はマメだらけだった。
 地形や植生から水がどこに溜まっているかを判断し掘るのだという。いや、すごいな、ホント。
 
◯ 活動の視点…「キーパーソンを掴め!」
前回は「とにかく動け!」と書いたが、ただ動くだけではエネルギーばかり消費してしまう。
ある程度動いて知り合いが増え、村の環境にも慣れて来たら、「動き方」を考える必要がある。
活動の第2段階として、「キーパーソン」を掴むことが重要になってくる。「キーパーソン」とは文字通り(活動の)鍵となる人物。
鍵となる人物と言っても分からんやんけ、と。だからどんな人でもいい。他人と少し違うことをしてる人、権力を持っている人、村一番の長者、農業知識に長けた人、喋りが上手い人…。 
 
今回は僕が掴んだキーパーソンは、「吸水ポンプを持っている(売っている)人」と「井戸堀り職人」。
「水不足が問題」と多くの農民が口にするこの村で、この2人は後々重要なアクターとなってくるだろう。
 
ちなみに、後から思ったのだが
”井戸を掘る → 水が何m下にあるかを測る → それに見合ったポンプを購入” という流れで計画を立てれば上記のような残念な青年のようなことにはならなかったはず…。
最近の活動でも感じていることだが、彼らの弱点は計画性というところにあるのかも知れない。