一人の農民との出会い ~有機農業普及運動の始まり~
▲変わった模様の豆。これから絞れる油が高く売れるんだとか。
◯ 有機農業の畑へ
一通り彼の畑の紹介が終わった後連れて行かれたのは、彼の親戚の家。20分ほど歩いて辿り着いたその場所は、驚くほど素晴らしい農場だった。
▲それほど高くはないパパイヤの木に果実がびっしり。
▲放し飼いではなく、平飼い鶏舎で効率よく育てられる鶏。
さらに驚いたことに、この農場では何と、バイオガスまで導入されていた。バイオガスとは、牛の糞尿から発生するメタンガスを燃料として利用するシステム。基本的にこの辺りでは調理には薪を利用する。バイオガスはガス代の節約、ひいては薪の節約、森林保全に繋がるのだ。
▲バイオガスの設備。牛の糞尿はもちろん肥料になる。
▲パイプが台所までつながっており、バイオガスで調理する。
▲ヒヨコの飼育に使われるこの電気もバイオガス発電によるもの。
◯ 有機農業の普及活動の始まり
この素晴らしい農場を見て思ったことがある。現地には適した技術が既に存在する。僕が新たに教えられることなんてない。しかし同時に思ったことは、情報(知識)格差が激しいように思われる。
目指すべき目標は全ての農民がこうした農業技術を持って、適切な農業ができるようになること。
彼らが有機農業をする理由、それは「農薬の毒性」・「環境保全」が中心に置かれている気がする。アフリカを始めとする途上国では依然、人体への毒性が強い農薬が使われていることが多い。そのせいで様々な病気が引き起こされるという現状もあるようだ。
そして僕を連れ回してくれた彼、キマンボは誰よりもそのことを強調し、村のために、人々の健康のために有機農業の重要性を説いて回るのだという。
▲有機農業を普及するNGO「EnviroCare」のポスターを手に農民に有機農業の重要性を説くキマンボ。農民は食い入って聞いている。
キマンボが言うには、農民たちは皆、畑に、野菜に「毒」を撒く。除草剤・殺虫剤、これらは農業の敵を殺す目的で使われているように見えるが、皆その「毒」まみれの野菜を食べている。彼らは自分自身に「毒」を撒いているんだ。そのことは農民は皆、賛同する。ただ、どうすればいいのか分からない。
彼は言う。「村民に足りないのは金でもトラクターでもない。教育だ。」
◯ 技術補完研修での学びと篤農家との出会い
後々分かって来たことだが、彼、キマンボは相当貧乏だ。多分村の中でも一、二を争うくらい。しかし、彼は巡回説教者(Evangelist)もしており、ボランティア精神が強く、とにかくよく働く。
JICAの技術補完研修で、僕は有機農業を学んだ。栃木県にある「アジア学院」。途上国のための農村指導者養成施設で、アジアだけでなく世界中の途上国から有機農業を学びに農村のリーダー達がやってくる。彼らが9ヶ月の研修を受ける中、協力隊は3週間だけの研修プログラムだったがとても多くのことを学んだ。肥料やボカシの作り方、もみ殻くん炭や発酵飼料の作り方を学んだ僕は、有機農業技術の普及を視野に入れていたのだが、これはもう僕が直接教えることはほとんど無さそうだ。
アジア学院で言われたことを思い出す。「自分だけでやろうとするな。任地に行ったら篤農家を探せ。」
篤農家とは、率先して様々な技術を試み、研究熱心な農家のこと。コミュニティの技術普及にとって、非常に重要な存在となる。そんな農民に出会えたことは非常に幸運だと言えるだろう。
今後は彼と動いていくことになりそうだ。活動の大きなきっかけになる彼と繋がったことは非常に大きな前進である。